レポート

「ふたりは同時に親になる」著者狩野さやかさんに聞く、夫婦が笑顔で一緒に育児をするコツ 後編

妊娠・出産の大激変にさらされたママは、必死でその変化に対応しようとしています。一方変化の少ないパパも、パパなりに「親になろう」としています。しかし、変化の少ないパパと劇的な変化を遂げているママの間には大きな「ずれ」が生じていきます。

「前編~ふたりの現在地を知ろう」はこちら

必要に迫られ「必死で親になっている」ママと、ママの大激変に気づけないパパ。ふたりでその「ずれ」を解消し、「ふたりが同時に親になる」ためには必要なステップとコミュニケーションのコツがあると狩野さんは提案しました。

4「ずれ」解消!対策のためのステップ3段階

「ずれ」解消に向けて実際にどう動いていけばよいのかを、狩野さんは3つのステップに分けて提示します。

①ママもパパも認識を変える

「ママは本気でギブアップしましょう!限界だと感じるのは弱いからでも力不足だからでもありません。「助けて」とシンプルに言うのは自分を「ダメだ」と認めることでも格好悪いことでもありません。自分がどれほどの変化にさらされているのか、もう一度思い出しましょう。

パパはママを「ケアが必要なひと」と認識しましょう。出産育児はパーソナルなことだと思いがちですが、経験者にはたいてい共通の悩みがあります。ママの激変とそれによるストレスを知識としてちゃんと認識して、「手伝う」のではなくて「ケア」をしましょう。

②環境対策の優先順位を見極める

講座の最初に書いた産前産後シートを活用してください。その中でママが「これだけは!」と思うことから解消していく。その時に的外れなことをしないように、ピンポイントを狙います。例えば「常に赤ちゃんペースの生活がつらい!」と言うママなら、パパは全力で時間捻出して、ママの「ひとり時間」を確保しましょう。

気を付けたいのが、ひとつ解消されたらすぐ次の課題へ取り組むこと。また時期が変わればママの悩みも変わります。その時期その時期のママの悩みやつらさをふたりで正しく認識するのが大切です。

③時間の見積もりをし直す

育児はおとなひとり専従で行っても、時間も人手も足りないことを理解しましょう。ママも「ひとりでできるはずだ」と思わないこと。その前提に立って、赤ちゃんがいる生活の中での時間配分の見積もりをし直す必要があります。見積もり次第ではパパは本気で仕事の時間を減らす覚悟も必要かもしれません。

見積もりをし直すとは、具体的には、第一に「理想の家事レベルを下げる」こと。既にママパパになっているひとは元の理想の60%まで削減、プレママやプレパパは現在の家事の40%まで削減を目標にするくらいがいいです。間違っても「ふたりで100%の家事」を目指さないこと!

次に、「プロジェクト型家事」の導入です。例えば「お風呂はパパの管轄」「トイレはパパにお願いね」という風に、丸ごと任せてしまう方法です。ママは任せる代わりに、やり方に異議を唱えないこと。家の中で2つの流儀が混じることを許せるとママは楽になれます。

逆に言うと、ママが許せる家事からプロジェクト型にしてしまうのもおすすめです。この方法のメリットは、例えばお風呂を任せたらお風呂の心配や段取りが丸ごとすっぽり、ママの頭から抜けることになること。抜けた分ママの休まらない思考が楽になるので、ぜひやってみてください!

その上で、祖父母や家事代行などの「第三の手」を借りるのもよい方法です。ただその際に必要なのが、パパが無関心にならないこと。ママはパパにこそ助けてほしいのだということをちゃんと理解して、「心はアウトソーシングしない」ことをふたりで確認しましょう。

5「ずれない」ために大切なコミュニケーション3原則

「ずれ」解消に向けての具体的なステップを見てきましたが、その中でのママとパパのコミュニケーションで押さえておきたいコツを、ワークをしながらお話ししましょう」

a.チームメイトとして同じ側に立つ

質問「夕食が終わりました。ママが億劫そうに食器を持って立ち上がります。明らかに不機嫌です。そんな時パパはママにどう言葉をかけますか?」「あるある」と会場から苦笑いが漏れます。

各テーブルの回答は
①「今日は俺がやるよ、座ってて」
②「どうしたの?たいへんそうだね、何か手伝おうか?」
③「僕が洗うよ」
④「食器洗っておくよ」
⑤「片付けるよ」

「どれも素晴らしい!」と称えながらも、狩野さんが「これはNG」と話すのが②の回答。「手伝う」は「本来自分の仕事じゃない」という思いがベースにある言葉だと解説します。「つらい時のママの気持ちを共有して、同じチーム、立場になるという意志が必要です」

b.当事者的ソリューション提案

質問「夕食を調理中のママが明らかにイライラしています。台所からは大きな音。そんな時パパはママに何と声をかけますか?」

この場合のNG例は「無理しないで弁当でも買ってきたら?」だと狩野さん。「食事を考えるのは自分の仕事じゃない」という思いがベースにある言葉だと指摘しました。「パパは「自分も当事者として一緒に考える」姿勢でいましょう。ベストアンサーは「よし!今日は俺が弁当買ってくるよ!」です」

c.痛み分け

質問「「また飲み会なの?」とママに言われてしまったら?」

「ママの環境の激変に対するいたわりを行動にするのが大切です。例えば「次の週末は自分が子どもを連れて出掛ける」と約束する、「一次会だけで帰ってくる」、「子どもを寝かしつけて二次会から参加する」などができるでしょうか。

パパの「自分も変化を受け入れる」姿勢が、「ずれ」解消への一歩ですし、何よりも「自分も親になる」本気が、ママに伝わってママの笑顔を増やします」

6今日から始める一歩(まとめ)

講座の前半は、ママとパパのそれぞれの「変化」について分析し、後半はその変化の違いによる「ずれ」をどう解消するか?の方法が提案されました。参加者のママやパパはどう受け止めたのでしょうか。「今日から始められそうな一歩」を発表し合って、講座は終わりに向かいました。

パパからは「NGワードを避けて、感謝の言葉を増やしたい」「家事分担を明確にして、プロジェクト型家事を導入したい」と積極的で具体的な解消策が次々と挙がりました。

ママからは「家事レベルをがんばって下げたい」「パパのやり方での家事を認めていきたい」という具体策の他に、「自分が求めていることをちゃんと自覚して言葉にしたい」「察してもらうのではなく、シンプルに「助けて」と伝えられるようになりたい」「ちゃんとSOSを出せるようになりたい」という気づきの声も上がりました。

なによりも「ママとパパ、どっちの方がたいへん?というのではなく、思いやり合ってWin-Winの関係になりたい」と話したママに、会場の誰もが頷きました。

「「ふたりの子どものことだから、笑顔で楽しく過ごしたい」というのがきっとどのママとパパも願う理想だと思います。疲れや不安で信頼が揺らぐように思う時も、その思いを忘れないで。ふたりが同時に親になるためにも、赤ちゃんも一緒に「家族になる」ためにも必要な道を、ふたりで一歩ずつ進んでいってください」

後記

私自身、最後の出産からもう12年が経ちましたが、産後の記憶はあやふや。必死だったことしか覚えていません。そして、必死になればなるほど、孤独の中に落ちていく感覚がありました。とても協力的な夫ですらこの「ずれ」。いったいどうすればよいのかと途方に暮れたことも濃厚な記憶です。

必死過ぎる産後の生活の中で、自分自身の状態を言葉にして伝えられる余裕のあるママはどれほどいるのだろうと、疑問に思っています。シンプルな「助けて」の言葉すら飲み込んでしまう状況で、冷静で客観的な説明など難しいのではないでしょうか。

狩野さんの分析はママにもパパにもわかりやすく共感しやすいものでした。その理解の上に立って、誰もができそうな打開策を提示してくれたことも、これから親になるプレママやプレパパにとどまらず、既に「ずれ」に悩んでいる夫婦にとっても助けになるのではないかと思いました。

諦めるママではない、「ずれ」に気づかないパパでもない、新しい産後の夫婦の生活がこの講座で芽吹いたと私は感じます。親世代も背負ってきた呪縛のような産後の夫婦の「ずれ」。それがやっと、解き放たれようとしています。希望に満ちた2時間でした。

主催の紹介

港区男女平等参画センター(愛称=リーブラ)について

リーブラでは、男女が平等に参画できる社会の実現に向けた講座やワークショップ、講演会を企画運営しています。こうしたイベントを通じて、男女平等についての意識向上や啓発を図り、学習機会の提供を行っています。(サイトより)

URL:http://www.minatolibra.jp/

講師 狩野さやかさんの活動の紹介

狩野さんはpatomatoという団体を運営しています。patomatoでは「産後クライシス」という言葉でも語られる、産後のママとパパの「ずれ」の問題を解消すべく、講座やワークショップを各所で開催しています。

URL:https://patomato.com/


麓 加誉子
麓 加誉子
麓 加誉子(ふもと かよこ) フリーライター。
市民活動団体「パトラン松戸チーム」の広報も。
興味があるのは、不登校、教育問題、ジェンダーの問題、広報、PR、ブランディング、NPO、社会課題など。
幅広い好奇心でさまざまな分野に挑戦中。
小中学生3人の子どもたちは不登校。「毎日明るくのびのびと」、をモットーに生活中。
趣味は、服作り、家具作り、ランニング、家庭菜園、編み物、読書など。