ふかふかのクッションフロアに壁は一面黒板、足元のおぼつかない小さな子供が安心して駆け回れる場所では、ママもゆっくり腰を下ろして気を休めることが出来る貴重な時間。
ともえ編集部がお邪魔したのはさいたま市中央区にある「しばふハウス」。
親子カフェでも児童センターでもない、HPには「フリースペース」と書いてあったけれどイメージしていた「フリースペース」ともまた違う、あたたかみのある居心地良い空間はまさに「しばふハウス」というかしこまり過ぎない呼び名がぴったり!でした。
近くにあるショッピングモール帰りの赤ちゃん連れのママが立ち寄っておにぎりを食べたり、同じ幼稚園のお友達同士で利用したり、放課後の小学生と子連れのママがトランプ対決をしたり『誰でも自由に利用できる』フリースペースの開放以外にも、子供向け学習塾や様々なワークショップ、映画上映会や毎回様々なテーマで繰り広げられる「地域No.1決定戦」などのイベントも開催されているのだとか。
利用者を限定しない、地域に住まう人々に開かれた「しばふハウス」を運営しているのは、以前この場所あったお蕎麦屋さんの定休日にキッズクラブを運営していたという三尾新さん。昨年夏前にお蕎麦屋さんが閉店し、その空き店舗をお借りしクラウドファンディングで資金を集め、こどもたちの「やりたい」にどんどんチャレンジできる場所をかたちにしていったとのこと。
「この場所を自分ひとりで作ったという意識はないんです。
黒板やベンチは子供たちが作ったし、おもちゃや絵本もすべていただきもの。
これからも地域のみなさんのいろんな声を集めていい場所をつくっていきたいんです。」
取材中も「みおさーん」と子供たちが集まってくる様子から、「しばふハウス」設立のきっかけは子供好きだから?かと思いきやその想いは別のところにありました。
「以前児童養護施設の自立支援に関わっていたときに、子供たちを支援するだけじゃ手が届かない部分があるということを感じました。子供への支援も大切だけど、生まれたばかりの小さな子を育てているお母さんへのサポートや地域で子供を育てられるような環境があればと感じました。」
その後学習塾への転職や前述のキッズクラブの運営を経て「しばふハウス」の運営をスタートさせた三尾さん。
「実は、もともと子供が苦手だったんです。赤ちゃんって触っていいかどうかも分からない怖さがあるし、小さな子供は何を考えているか分からなかったり。けど触れ合っているうちにだんだんと分わかってきたこともあります。子供たちを変にかわいがったりもしなければ子供扱いもしない、「ひとりひとりの人間」と思って接しているので、勝負をするときにわざと負けたりすることもありませんね。トランプでも、オセロでも、小学生とは真剣勝負、絶対負けないですよ(笑)」
そう笑う三尾さん。
「しばふハウス」では小学生と赤ちゃんが触れ合う場面もよく目にする光景だとか。兄弟親戚以外、赤ちゃんと触れ合う機会はなかなか無いもの。最初どうやって赤ちゃんに接したらいいか分からない小学生たちも、手をつないでみたり抱っこしてみたり、次第に慣れて一緒に遊びだすとのこと。
「ここでは極力『何かを禁止する』ということはしたくないんです。『赤ちゃんがいるから遊んじゃダメ』という言い方ではなく『赤ちゃんがケガしないように気を付けてね』と伝えれば、どうしたらいいのかを子供は自分たちで考えるようになるんです。」
実はこんなエピソードも
「しばふハウスの外には人工芝のシートが敷いてあります。柵を作ったらと言われることもあるのですが閉鎖的になるようで囲いのようなものは作りたくなくて…。時々外の人工芝までハイハイで出てしまう赤ちゃんもいたりするのですが、柵が無くてもアスファルト面には決して出ていかないんです。物理的な柵が無くても、赤ちゃんはちゃんと分かっていて出て行かない。手足の感触で分かる人工芝が「心理的な柵」になっているんです。」
もちろんたくさんの目で見守られている中での一コマ。
私もひとりの親として危険なこと、相手に迷惑をかけてしまうことをあれこれ必要以上に心配して、あれはだめ、ここはダメと余計な先回りをしてしまうことが多々あります。柵を立てたり、危ないよと連れ戻すのではなく、こうして地域の目で見守られ自由に行動する中で子供自身も「心理的な柵」を自ら学んでいくのだと感じました。
「学生時代一人暮らしをしていたんですが、カギはかけていなくて、帰ると誰かいて、勝手に鍋をやっているみたいな感じでしたね(笑)。基本的に人が居てくれることが好きなんですよね。物を盗られたりしないの?と心配されることもあるけど、基本的に人を信じているんです。人も子供たちも、可能性を信じたいんです。」
『人を信じる』
三尾さんの根底にあるその想いが「しばふハウス」のあたかみをつくりだしていると感じました。子供を思うあまりに先回りしてしまう親の気持ち、子供を信じているからこそ手や口を出さず見守る三尾さん、「親」以外の様々な価値観を持った大人と接することができるのも子供たちにとっては「しばふハウス」で得られる貴重な経験で、そんな「つながり」をゼロからつくろうと思ってもなかなか難しいもの。そして子育て中のママが一人ですべてを抱えてしまっていることが「孤育て」はじめ様々な問題のタネになっていることはきっと多くの人が感じていることだとも思います。
「『知らない人だから挨拶しない』ってなんだか寂しい世の中だと思うんです。
ただ様々な犯罪なども心配される世の中であることが現実で…だからこの場所であれば大人も子供の誰でも安心して挨拶できる、そんな場所になればいいなと思います。
今小さなお子さんが小学生、中学生、大学生になって…ずっと来られる場所「まちのひとつに」したいと思っています。そのためには続けていくことがなにより大事で、支えてくれている方々からの感謝を街に還す場所として、これからもたくさんの人の意見を聞きながらこの場所を続けていきたいと思っています。」
運営してみて初めて分かったこと、失敗したこと、思いもよらぬこと、続けていくことは決して簡単なことではありませんが三尾さんが「やってて良かった」と思い出すのはひとりのママのこと。
「ゼロ歳の赤ちゃんがいるママだったんですが、『やっと落ち着いてコーヒーが飲めた~!』と言ってくれたんです。赤ちゃんが動くようになってきて他の子とぶつかるのではと危なくて児童センターにも行けずに自宅に籠りがちになってしまっていたようで、ここで他のママと話をしたり、お子さんを遊ばせたり、『気持ちが楽になる』って言ってくれたことが嬉しかったですね。ここがあって楽になれる人がひとり、ふたりといてくれたら本当に嬉しいです。」
結婚もしていない、パパでもない、それは「子供のことが分からない」「ママの大変さが分からない」とイコールではありません。逆に親になったから、ママだから子供のことがなんでもわかる、ということでもありません。三尾さんもたくさんのママと話す中で、働きたいママ、子供と一緒にいたいママ、実はちょっと子供と離れてリフレッシュしたいと思っているママがいること、保育園に預けるにも色々な葛藤や現実があることなど実際に話を聞いて少しずつ分かり始めたとのことです。
「実はちょっと前に色々あって相当落ち込んでいて…そのときもここのママさん方にとっても助けられたんです!これからもこの地域のママが楽になることを全力でやっていきます!ぜひ遊びに来てください、大歓迎です。」
お近くの方、ぜひ遊びに行ってみてはいかがでしょう?
「こんな場所がうちの近くにもあったらいいな!」という方は、ぜひお散歩がてら探してみては?
(じつはともえ編集部渡邉がしばふハウスさんを知ったきっかけは「お散歩」です!)
児童センター、親子カフェ、そんな呼び名やカタチに捕われず「街ぐるみで子供を育てよう」としている場所や人に出会えるかもしれません。子育てをきっかけに住まう街を知っていく、顔見知りを増やしていく、そう考えると今日は違う方向へお散歩してみよう!ときっと足取りも軽くなるはずです。
しばふハウスについてはこちら http://www.shibafu-house.org/
- 渡邉 加奈子
- 娘が2歳のときPowerWomenプロジェクト在宅スタッフ登録をし、アンケート入力や事務局代行などを行う。その後【笑顔で働きたいママのフェスタ】イベント本部のスタッフとして、パートタイム勤務を経て正社員に。第2子の産休育休を経て現在は短時間正社員となる。ふたりの子供たちに挟まれて寝るのが何よりの幸せ。育児がひと段落したら趣味の切り絵と三味線を再開するのが夢。
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