主婦や公務員が個人型確定拠出年金を検討する際のポイント
2016年5月に「確定拠出年金法等の一部を改正する法律案」が成立し、2017年からは個人型確定拠出年金の対象者が公務員や第3号被保険者(主婦層)まで広がることになりました。
そう、来年からは私たちママも、個人型確定拠出年金に加入することができるようになるのです。
そうは言っても、個人型確定拠出年金が一体どういうものなのか?その内容が分からなければ加入の是非を考えることなんてできませんよね。
今回は、個人型確定拠出年金がどういうものなのか?その概要と、第3号被保険者の視点から見た個人型確定拠出年金について説明します。
「個人型確定拠出年金」って何?
2017年から個人型確拠出年金の対象が広がるにあたり、商品を取り扱う金融機関は今後アツいPR合戦を繰り広げることになるでしょう。
聞きなれない「確定拠出年金」も、今後はテレビやチラシで見かける機会が増えると予想されます。
先にどういうものかを知っておくと、チラシを見ても内容を追いかけることが簡単になるはず。
確定拠出年金には「企業型」と「個人型」の2種類があります。
会社が会社の制度として導入するのが「企業型」。
「個人型」は個人で加入するものです。
確定拠出年金では、毎月決まった掛け金を積み立て、それを資金に自分で運用をし、損益の反映された金額を60歳以降に年金または一時金として受け取ります。
掛け金の金額は上限までの範囲で任意です。
自分で運用するというのは、具体的には金融機関が用意した商品の中から、どの商品をどれぐらいの割合で持つのかを自分で決めるということです。
選べる金融商品は預貯金など元本が保証される商品の他、投資信託、株式、債券などさまざま用意されます。
これらの商品をどの割合で選び運用するかによって、同じ掛け金でも運用結果に違いが出ます。
選ぶ商品は途中で入れ替えたり、割合を変えたりすることができます。
また、途中で掛け金の積み立てを停止し、運用のみ行うことも可能です。
このように受け取れる年金額は運用次第という点から、確定拠出年金は「自己責任で用意する年金」と言えるでしょう。
確定拠出年金は3段階で税制の優遇が受けられる
確定拠出年金が投資信託など他の投資商品と比べて有利なのは、3段階で税制の優遇が受けられるからです。
1.お金を積み立てるとき
まずは、お金を積み立てるとき。
確定拠出年金の掛け金は、小規模企業共済等掛金控除として所得から控除することができます。
所得から控除するというのは、所得税の計算をする際には所得に含めなくて良いということです。
つまり、掛け金で拠出した金額分を引いた所得をもとに所得税の計算をしてもらえるので、支払う税金が安くなるメリットがあります。
2.積立金の運用中
次に、積立金の運用中。
通常、運用して得られた利子や配当金には20.315%(※1)の課税がありますが、確定拠出年金は運用中の利子や配当金が非課税となります。
※1…所得税と復興特別所得税を合わせた税率。
お金を受け取るとき
最後に、お金を受け取るとき。
確定拠出年金では、運用中に非課税となる代わりに、受け取り時に一括して課税されることになります。
しかし、受け取り時の課税にも控除があるので有利です。
一時金として受け取る場合は退職所得控除、年金として受け取る場合は、公的年金控除が適用されます。
確定拠出年金で注意すべきポイント
このようなメリットから注目されている確定拠出年金。
では、注意すべき点はどの辺りでしょうか。
積立金は60歳まで引き出すことができない
ひとつは「積み立てたお金は60歳まで引き出すことはできない」という点です。
60歳までに例えばマイホーム資金や教育資金が足りなくなっても、確定拠出年金で積み立てたお金を引き出して使うことはできません。
ですので、加入する際にはそのことも念頭に、資金不足にならないよう掛け金の金額を検討しなければなりません。
積み立てたお金を途中で引き出すことが認められないのは、確定拠出年金制度が貯蓄のための制度ではなく、「年金のための制度」だからです。
簡単に引き出せないことをメリットとして考えるならば、貯蓄がなかなか続かない人でも途中でくじけることなく老後資金の準備を進められる、と考えることもできます。
計画的に上手に利用していくことが大切です。
手数料(個人型の場合)
もうひとつは手数料です。
「企業型」では会社が負担してくれる手数料ですが、「個人型」では維持手数料はご自身で負担することになります。
手数料には、初期費用と毎月かかる費用があります。
特に毎月かかる費用については、確定拠出年金は加入期間が数十年にもなりますので、負担額も大きくなります。
毎月かかる費用には、国民年金基金連合会、事務委託先金融機関に掛かる手数料の他、運営管理機関に掛かる口座管理手数料があります。
また、商品に掛かる信託報酬も発生します。
運用により手数料以上の収益を得られなければ、結果的にマイナスになる可能性もありますので注意が必要です。
第3号被保険者が個人型確定拠出年金に加入する際に注意したいこと
確定拠出年金について概要を理解したところで、来年から対象になる「第3号被保険者」という視点から個人型確定拠出年金の特性を見ていきましょう。
第3号被保険者は、会社員や公務員に扶養されている配偶者のことを言います。
「扶養されている」とは、税金の扶養ではなく健康保険の扶養のことであり、年収130万円未満の人を言います。
専業主婦のママや、いわゆる「103万円の壁」を超えないよう意識して働いているママなど、この「ともえ」の読者の皆さんにも該当者がたくさんいらっしゃいますね。
第3号被保険者は税制優遇のメリットをほぼ受けられない
先ほど、確定拠出年金は3段階で税制の優遇が受けられると説明しましたが、第3号被保険者は1つ目の掛け金に対する税制優遇のメリットを「ほぼ」受けることができません。
なぜかを説明します。
1つ目の優遇は、所得に対する所得税・住民税に受けられるものです。
ですが、専業主婦の方はそもそも「所得」がありません。
パート等で給与収入がある方でも、給与所得控除65万+(住民税の)基礎控除33万を合わせて年収98万円未満の方は、税の金額を計算するもとになる「課税所得」が2つの控除によって0になりますので、小規模企業共済等掛金控除(確定拠出年金の掛け金)を適用する所得がありません。
「ほぼ」受けられないと書いたのは、年収98万円以上で第3号被保険者に該当する年収130万円未満の人は、いくらか課税所得があるので、わずかですが税制の優遇を得られることになります。
このことから、もしご夫婦でどちらか一方の加入を検討されるのなら、税制面の優遇を考えれば給与所得の多いパパに加入してもらう方が有利になります。
パパが「企業型」でマッチング拠出を導入している会社ならそれを利用しよう
また、パパの勤務先が「企業型」に加入しておりマッチング拠出(※2)を導入している場合には、手数料が自己負担になる「個人型」にママが加入するよりも、マッチング拠出の利用を優先する方が、手数料が会社負担であるため有利です。
それらを考えた上で、第3号被保険者であるママがあえて加入を検討する理由を挙げるなら、老後資金の不足額が大きく、1人分の掛け金の上限では間に合わない場合に夫婦で加入する。
あるいは、60歳以降しか引き出せないため、夫婦の年齢差を見越してママが加入する。
などが考えられます。
※2…マッチング拠出:会社が負担している掛け金に加え、従業員が定められた金額内の掛け金を上乗せできる仕組みのこと。
今後の税制改正にも注目しよう!
働くママを取り巻く変化は、この個人型確定拠出年金だけに留まりません。
政府は一億総活躍社会と銘打ちママの社会進出を後押ししていますが、今後は、働くママに深く関わる税制改正が次々に行われていく可能性があります。
すでに決まっているものでは、2016年10月からは現在の第3号被保険者に該当している方の一部(※3)が、ご自身で社会保険(健康保険や厚生年金)に加入しなければならない対象者になります。
その他、具体的な時期までは決まっていませんが、配偶者控除を無くして専業主婦・共働き世帯どちらにもメリットのある制度に変えよう、といった話し合いも進められています。
今後の税制改正のニュースは注意深く追う必要があります。
お金に関する制度は、仕組みが複雑で難しく感じてしまいますね。
ですが、「知らない」のと「知っているけどやらない」のでは大きく意味が違います。
「お金の話は難しそう」と敬遠せず、ニュースでも経済の話題が聞こえたら少しだけ興味を持って聞くようにしてみてください。
そして、少しずつ知識を増やしていきましょう。
※3…2016年10月から社会保険適用の対象となるパートタイマーの勤務条件
- 勤務時間が週20時間以上
- 年収105万6千円以上(月収8.8万円以上)
- 勤務期間が1年以上の見込み
- 従業員501人以上の企業に勤務
- 学生でないこと
以上全てに該当する者。
- 横山 沙織
- ファイナンシャルプランナー(2級FP技能士・AFP)。おこづかいセミナー講師。子供金銭教育をテーマに活動する団体「FPmama Friends」に所属し、親子で学ぶおこづかい教室を開催しています。双子の娘+男の子の3児子育て中のママです。趣味は温泉巡りとベランダ菜園です。