続けるのが嫌になっている習い事。本当は楽しく続けてほしいけど…
「○○ちゃん、ピアノを習い始めたんだって!」
「○○くんは、何か習い事はしているの?」
私の周りでこのような会話がよく聞かれるようになったのは、我が家の双子の娘が幼稚園の年中さんの頃だったと思います。
子どもたちは幼稚園生活にも慣れて、「そろそろ何か……」と習い事にチャレンジし始める時期なのかもしれませんね。
初めは楽しく調子よく通っていた習い事。
ですが時が経つにつれて、始めた頃の情熱はどこへやら。
「今日は練習休みたい~!もう、辞めたい~!」泣いて叫ぶ我が子と毎週のバトル。
そんなママもいらっしゃるのではないでしょうか。
本当は、習い事を楽しく続けてくれることが一番だけど、本人のやる気はないし、一向に才能の芽が出る様子もない。
月謝代だって馬鹿になりません。
だったらもう、辞めた方がいい?
でも、簡単に辞めるのはどうなの?
心が揺れているママに、今回は経済学の世界から決断のためのヒントをお届けします!
決断に影響を与えがちなサンクコスト。実は無視しても良いコストだった!?
私達は、「(何かを)した方がいいのか、しない方がいいのか」と考える時に、比較するための要素の1つとして「コスト」のことを考えます。
コストには色んな種類があり、それぞれが私達の決断に影響を与えているのですが、その中の1つに、「サンクコスト」と呼ばれるものがあります。
サンクコストとは、すでに使ってしまった、戻ってこない費用のことを言います。
私達の決断は、無意識のうちにこのサンクコストに影響され、引きずられてしまうことがあります。
例を挙げて考えてみましょう。
あなたは、全10回のフィットネス教室にダイエットを目的に申し込みました。
代金は全10回分を最初に前払いする仕組みです。
仮に5000円としましょう。
3回目を過ぎたあたりから、あなたはこの教室は自分に合わなかったと感じ始めます。
思っていたよりもハードな割に、一向に痩せる気配がないからです。
気乗りしない状態ではありますが、あなたは残りの回数、フィットネス教室に通い続けるでしょうか?
通い続けるかどうか決める時に、脳裏には「サンクコスト」がよぎります。
つまり、
「最初にもう、5000円払っちゃってるしなぁ……」
という気持ちのことです。
「もったいないし、最後まで通おうかな」と考えてしまうのです。
このように、決断に大いに影響がありそうなサンクコストですが、実は「サンクコスト=無視しても良いコスト」だったのです。
先程の例で説明すると、
- フィットネス教室を続ける場合のコスト
5000円+続けるための費用(例:交通費など) - フィットネス教室を辞める場合のコスト
5000円+辞めた後にかかる費用(例:別の教室の参加費など)
このように、フィットネス教室を続けても辞めても、5000円はどちらにも同じようにコストとして計上されます。
ですから、サンクコストの部分は無視してよく、これからかかる費用にのみ目を向けて考えればいいのです。
子供の習い事についても同じことが言えます。
- 初めに入会料を取られた。
- 習い事の為に必要な道具を買いそろえた。
- 何か月も月謝代をかけているのに、一向に級が上がらない。
など、これまでにかけてきたコストのことが頭をよぎり、「これだけかけたのにやめてしまったら全て無駄になる」という理由で辞めるのを躊躇するのであれば、そこは気にしなくてもいいコストだということです。
そう考えると、決断が少しシンプルになりませんか?
ママもあるある、こんな場面
サンクコストに決断を引きずられる経験は、身近なところにもたくさんあります。
例えば、資格試験。
通信教育も申し込んだし、検定料も何度も支払った。
その時、「ここまでかけたのだからもう後には引けない」というような気持ちが、良い意味での覚悟ではなく悪い意味での執着になっているのなら、スパッと諦めるのも一つの手です。
他には、ギャンブルやクレーンゲーム。
これだけお金をつぎ込んだのだから、取り戻すまでは終われない。という気持ちになってしまうと、支払うコストは大きくなります(運よくすぐに取り戻せることもあるかもしれませんが、あくまで運次第)。
食べ放題が美味しくなくて後悔。でも元を取らなきゃと頑張って食べる……。
これも、思い当たるママは多いですね!
忘れがちなコスト、機会費用。こちらは無視できません
もう一つ、決断に欠かせないコストがあります。
それは、「機会費用」と言われるコストです。
こちらはサンクコストとは反対に、気にしなければならないのに忘れがちになってしまうコストです。
機会費用とは、他の選択肢を選んでいたら得られたであろう利益を、選択しなかったがために、その利益を失ってしまったとみなして考えるコストです。
こちらも分かりやすく例を挙げましょう。
あなたは今日夜の予定がないため、急ぎではないものの溜まってきている仕事を終わらそうかと、少し残業をしようと考えていました。
その時、同僚がやってきて飲みに行きましょうと誘われました。
やっぱり飲み会に参加することにしたあなた。
このときのコストはいくらでしょうか。
飲み会の費用が仮に4000円だったとします。
- 飲み会のコスト
飲み会代4000円
と考えてしまいがちですが、機会費用を加味すると実際はこうなります。
- 飲み会のコスト
飲み会代4000円+残業すれば得られていた残業代3000円(仮)=7000円!
この考え方が機会費用です。
選ばれた選択肢の裏には、もう1つの「選ばれなかった選択肢」が存在します。
そっちを選んでいたら得られるはずだった利益を考えることで、決断が慎重になりますよね。
サンクコストを無視し、機会費用を考慮する。
というのが、経済学の視点から見た決断のためのヒントです。
習い事で得られるものは、お金だけで判断できないから…
では、機会費用の考え方を子供の習い事に当てはめるとどうでしょうか。
これは、すごく難しい考え方です。
飲み会の例のように、選択によって失われた利益が金額として目に見える形で表現できればいいのですが、習い事の場合はそうはいきません。
続ける、という選択をした裏側に、「辞めて違う習い事をすればあっさり芽が出た」という結果があるかもしれませんし、逆に、辞める選択をした裏側に、「続けていればスランプを乗り越え、将来プロ野球選手になっていた」という結果がある可能性だってあります。
結果をどの時点で判断するかによっても、結論は変わります。
プロ野球選手にはなったけど、プロとしては短命に終わりその後の生活に苦労した。
となるかもしれないし、逆に若いうちはパッとしないゴルファーだったけど40歳を超えてから花開き、生涯賞金額はプロ野球選手としての人生より最終的に利益が出た。
ということだって考えられます。
何がその子にとっての「利益」なのかは、今の時点で結論の出ることではありませんし、価値観によるところも大きいです。
そういう意味では、最終的に続ける・辞めるの選択が良かったのか悪かったのかという判断は、子ども自身が大人になってから振り返り、意味づけをするものなのかもしれません。
「あの時、続ける(辞める)と決めたけど、それで良かったんだなぁ。」と意味づけるのか。
「あの時、続け(辞め)させられたせいで自分の人生こうなってしまった。」と意味づけるのか。
実際の決断を子供自身がしたか、ママがしたか、に関わらず、結果は子供の感じ方次第でどちらでも考えられます。
難しいことではありますが、ママの立場からできることは、子供が将来的に前者の結論が出せるような後押しをしてあげることではないでしょうか。
経済学のヒントを生かして、前向きな決断をしていけたらいいですね!
- 横山 沙織
- ファイナンシャルプランナー(2級FP技能士・AFP)。おこづかいセミナー講師。子供金銭教育をテーマに活動する団体「FPmama Friends」に所属し、親子で学ぶおこづかい教室を開催しています。双子の娘+男の子の3児子育て中のママです。趣味は温泉巡りとベランダ菜園です。